寝言

(元)銀行員(今)経理のブログ。仕事、会計、時事、お金、趣味等々、好きなことしか書けません。

【世紀末信用金庫・鹿児島相互信金事件】 ノルマ達成のために不必要な融資をするのは不正なのか?

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4月21日に新聞で報じられた鹿児島の鹿児島相互信用金庫の事件。

職員600人強の信金で、不正にかかわったのが23人、懲戒処分を受けたのが144人で同じ金融機関で営業をしていた身として、ダイナミックな事件だと嗤いつつ、詳細について興味があったので報道や第三者委員会の報告を読んでみました。

その報道の中で「ん?」と思う箇所があったので書いてみました。

ノルマ達成のために不必要な融資をするのは不正?

気になったのは新聞報道(朝日新聞)のこの一文。

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さすがにローンの利息を立替えるのがアカンというのは何となく分かる。グレーな方法で営業をしている人はいるが、それをやっている人を実際に見たことはない。

三者委員会の報告書を読んでも、事件に関わった23人のうち「不必要な融資」関連のみというのは2人のみで、2人とも利息を立替えていたというので、事件としての本質は「不必要な融資」ではなく利息の立替えと言えるだろう。

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ただ、「ノルマ達成を目的に不必要な融資」というのが日常茶飯事だった、我が元職場の金融機関は今後非常に営業活動に苦しむだろうと感じた。

利息の立替えを実際にはしなくても、「不必要な融資」のお願いをすること自体が不祥事として通報されかねないからだ。

元職場では3月の決算や9月の中間決算の際には特に多く、期末の最終日にはトータルで10億円の融資実行のうち8億円弱が「不必要な融資」だったことの記憶もある。

不必要な融資といってもいくつかのパターンがあって

 ・実際に資金が必要になるのが数か月先の融資

 ・必要がないけど融資して、そのまま貸しっぱなしになる

 ・必要がないけど融資して、期末を過ぎるとすぐに返済される

と言ったものがある。処分を受けた支店長たちと同じ手法ももちろん含まれている。

もちろん、監督する側もアホではないので、社内の監査部も多発時期にはモニタリングを強化し、融資した後の資金の使用状況について報告を求められるのであるが、その目をいかに掻い潜るかがテクニックであった。また、不必要な融資の利息をお客さんにいかに払ってもらうかというのもテクニックが必要で、単にお願いをするだけだと足りないのだ。

不必要な融資をするためのテクニック

では、実際にどういうテクニックを使って不必要な融資をして、お客さんに利息を払ってもらうかについて、自分自身の体験や同僚、上司から聞いた話からまとめてみた。

◎超初級 自腹で菓子折りを購入して渡す。

自分の財布が痛む代わりに、物を貰って嫌な気持ちになる人はいないので、誰が相手でもやりやすい。誰もが一度は通る道。ただし、あまりにノルマが高すぎると菓子折り代がかさむのが難。

超初級だけど、冷静に考えると実質的には利息を立替えてるのと近いのでかなりヤバいかもですね。今後はできなくなるかもしれないです。ノルマにも種類があって、「個人の借り入れの客数を増やせ」的なのだと借入金額が1万円でも良いので、菓子折り代が利息の合計より高くなることもあります。

◎中級 土下座をする。

これは財布は痛みませんが、心が痛みます。お願いをするのは玄関先が多いので、スーツが汚れるという抵抗もあります。

相手を選ぶテクニックで正常な判断ができる企業の経営者相手だと、ドン引きされます。高齢の経営者などであれば見るに見かねて、借り入れをしてくれることもあります。

ここまでは私も通った道です。(ただ、これで融資をとれたことはありませんが。)

◎上級 融資のバーターで宗教やマルチ商法の集会に行く。

企業の経営者には宗教やマルチ商法に熱心な人が意外と多いです。

そういう経営者に不必要な融資のお願いをすると、必ずバーターで集会への参加をお願いされます。それに行けばこちらの勝ちで、融資はあっさりと決まってしまいます。

後輩のO君は手段を選ばない男なので、宗教2つ、マルチ2つを掛け持ちして非常に優秀な成績を残していました。

ただ、これ手段はは諸刃の剣です。一度これをやってしまうと、自分自身が転勤するまではおろか、後任の人まで集会に行き続けないといけません。O君の転勤後、後任のS君は宗教にもマルチ商法にも拒絶反応を示し、集会に行かなかったため、彼らへの融資はすごい勢いで繰上返済されていきました。

◎禁じ手 ペットの名義で借り入れをしてもらう。

昭和50年代の終わり頃まで使用可能だったテクニック。50代中盤の晩年係長が当時使ってたというテクニックだ。

主にはカードローン口座のノルマ達成のために使われていたという。今の時代にこれをやったら鹿児島相互信金レベルではない騒ぎになってしまうことだろう。

当時は普通預金の開設に本人確認の必要がなかった。まず、普通預金の口座数を増やすノルマの達成のため営業隊員は取引先の人間全員だけでなく、ペットの名義も使用して口座を増やしていった。

そして、次にそのペットの名義を使ってカードローン口座を爆発的に増やしていったという。現在であれば厳しい本人確認が必要になるが、借り入れでも当時は免許証や保険証の番号を申込書に書くだけでよかったので、ペットの名義でも人間の免許証の番号を適当に書けばすんでいたのだ。

さすがに、平成になってからはできなくなったというし、そもそも使わないで下さいと言っていたようではあるが、ノルマに追われた昔の金融の営業はここまでしていたのだ。

この事件から思うこと

「不必要な融資」をするということについて面白く書いてみたが、私自身も金融機関が「不必要な融資」を増やしていくことは、自分本位の考えで長期的に必ずどこかでしっぺ返しを食らう行動だと思っていたし、それを何十年も続けるのが嫌だったというのも最初の転職をした理由の一つです。

私と同期で入社した仲間も30歳を前にして、会社に残っているのは半分を切りましたが、きっと同じような理由で辞めた人もいると思います。人材の流出を阻止に苦慮していると言いますが、取引先のためにもこの事件を契機に変わっていってほしいと思います。

 

以上でこの話は終わります。それでは!